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寄稿

【連載】女性による超高齢社会のための女性のライフデザイン ~曖昧模糊とした女性の生き方の全容を探る~【第1回】

第1回:活動趣旨と連載の意義 & 女性のライフデザインの多様性

寄稿に寄せて(東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 秋山弘子)

akiyama.jpg人生90年時代。長く続いた人生50年時代に比べると人生が倍近く長くなっただけでなく、90年の人生を自分で設計して生きる時代になった。多様なライフデザインが可能である。この「女性のライフデザイン研究」グループでは、自らが60代になった時の生活を具体的にイメージして、社会の仕組みや商品、サービスとして何が欲しいかを考えるというおもしろいアプローチをとった。事業化を想定したアクションプランには、すぐにも実現できそうな案も見られる。どこかのフィールドで試せるとよい。同時に、将来のプランとしては、もっともっと大胆なアイディアを考えてみてほしい。伝統社会の中で様々な制約を受けながらも、自分の人生を切り開いてきた女性たちに人生90年時代のライフデザインの先導を期待している。

 





【第1回編集担当】株式会社富士通総研 経済研究所 倉重佳代子


1. はじめに 

 

1.1 "L90"の活動とこの連載について

 

 一般に、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、そして21%を超えると「超高齢社会」とされる。日本の高齢化率は2007年に21.5%となり、超高齢社会に突入した。2013年には25%を超え、待ったなしの状況にあると言えよう。この高齢化率が2030年までには30%を超えると言われる中、東京大学の高齢社会総合研究機構(IOG: Institute of Gerontology)では産学連携の取り組みとして、2009年度よりジェロントロジー・コンソーシアム、2011年度よりジェロントロジー・ネットワークを設立し、2030年を見据えた活動を続けている。(ジェロントロジー・ネットワークは2011~2013年度を第一期とし、その目的として「超高齢社会に対応する新たな価値、産業、イノベーションの創出・推進」を掲げている。2014年度以降も引き続き活動を継続する予定。)多様な業種から約40社が参加し、主にワーキング・グループでの活動を中心として、超高齢社会の様々な課題に向き合っているが、このうちWG8は高齢者の生活ニーズ・ライフデザインを研究するワーキング・グループである。


 その中で私達は2012年度から「WG8D:女性のライフデザイン研究会」というサブグループを立ち上げた。超高齢社会のライフデザインについては多くの議論がなされているが、どれも「定年」という大きな節目がある男性の人生を前提としているように感じたからだ。17社とIOGから30名(女性24名、男性6名)が集まり、自らの活動を"L90"(90歳のLadies)と題して、人生90年時代の女性のライフデザインを女性の視点から考えてみることにした。


 さて、"L90"の活動は、社会に対して女性の新しい生き方を発信していくことも目的としている。そこで、このGerontology Business Reviewの場を借りて、私達の考える女性のライフデザインの考え方や、二毛作目の人生をより楽しく幸せに生きるための様々なアイディアを発信してみたい。主にフルタイムで働く女性たちによる議論であり、必ずしも女性全体の意見を反映しているわけではないとの指摘もあろうが、2030年には女性が働き続けることが当たり前の社会になっている可能性も高い。また、2030年をターゲットとした理想像は、今見ると"飛んでいる"と感じられることもあるかもしれない。しかし、これからご紹介していく考え方やアイディアが、様々な企業の方々に共有され、事業のヒントとなり、一つでも二つでも形になっていくことが私達の願いである。

 

1.2 "L90"の活動の特徴

2012年7月から2013年4月にかけて、まずは女性のライフデザインの全体像を議論した後、6つの個別テーマについて検討した。この"L90"(女性のライフデザイン研究会)の活動には以下のような特徴がある。


 女性の視点&男性の視点
・女性の視点から、女性ならではの課題を共有するとともに、女性の多様な生き方を前提としたライフデザインを考えた。
・少数ながら男性のメンバーの参加があったことにより、常に男性との違いという点を意識できただけでなく、女性だけでは気付かない視点や切り口を与えられ、より客観性と深みの増した議論ができた。


 世代間の違いという切り口
・ 「自分が60~70代になる時にはどんな世の中になっているか」を議論する中で、女性も世代により価値観や考え方のギャップが大きいことを実感したため、世代間による違いという切り口からの検討を試みた。


 異業種の多様性
・ 多くの業種からメンバーが集まっていることにより、異なる視点からの課題を共有することができ、多様なアイディアが生まれた。


 バックキャスティングのアプローチ
・ 「2030年の社会」を一つのターゲットとして理想像を描いた後、現実の課題とのギャップを埋める解決策を考えるバックキャスティングのアプローチも取り入れ、未来に向けて、理想のライフデザインを実現するためのアイディアの創出を試みた。


 ライフデザインのアラカルトメニュー
・女性ならではの多様なライフコースを前提に、個別テーマについての議論では、その時々に応じて選択できるアラカルトメニューの形で生き方のヒントを提示することを試みた。

 

およそ月1回のペースで数回に分けて連載していくが、第1回の今回は、まず、私達が議論してきた女性のライフデザインの全体像についてご紹介する。第2回では、女性のライフコースの多様性と世代間の考え方の違いについて見てみたい。そして、第3回以降は、個別のテーマについて考えていく。検討したテーマは「働く/お金」「楽しむ/学ぶ」「介護/家事」「暮らし方/住まい」「つながり(家族・地域)」「健康/美容」の6テーマである。各テーマはダブルタイトルのように見えるが、生活する上では一緒に考えた方がより現実的な議論ができるだろうという思いが一致し、このように設定された。(例えば「健康/美容」は若い世代では別々のテーマであるが、50代以上になると"健康あっての美"と実感する女性たちが多くなるからである。)

 

 

2. 女性のライフデザインの全体像

 

2.1 なぜ今「女性のライフデザイン」を考えるのか

 

 平均寿命が女性は約86歳、男性は約80歳となり、健康であれば人生90年という時代である。後半生はもはや余生ではない。健康寿命をいかに長く保ち、心身ともに健康で充実したシニアライフを送るかは、社会にとっても個々人にとっても最優先事項である。実際、「人生二毛作」という考え方から、ライフデザインについて多くの選択肢が議論されている。


 しかし、残念ながら多くの議論は男性を対象としており、基本的には「定年」という人生の節目があることを前提としている点で、出発点が比較的均質なものとなっていると考えられる。一方女性の場合には、就職、退職だけでなく、結婚、出産、離別、介護など様々なライフイベントが人生の転機となることも多く、女性たちはその時々の局面において、自分の生き方を選択してきた。さらに家族状況などに応じて、その環境は望むと望まざるとにかかわらず変化する。だが、女性のライフデザインについては、それを正面から取り上げて語られることが少なかったのではなかろうか。まだロールモデルも少なく、選択肢もあまり提示されていない。


 また、一般に、会社中心の生活を送ってきた男性と比較して、女性は交友関係が広く地域社会にも溶け込みやすいと言われているが、果たしてそうだろうか。家族関係や居住のあり方も変化し、長く働き続ける人が増えるなど女性の人生も多様化する中、必ずしも全ての女性が後半人生をスムーズに始められるわけではなくなってきている。そういった意味でも女性のライフデザインを改めて考える必要があるのではなかろうか。

 

2.2 ロールモデルとなる女性

 

 上で述べたように、女性のライフコースは多様であり、またその後半人生についてはロールモデルが少ないため、「人生二毛作」と言ってもイメージが湧かないのが現実である。そこで、各メンバーがそれぞれ二毛作に近い生き方をしている人を探してみることとした。すると、身近な人から世界で活躍する女性まで様々なモデルが集まった。その生き方はまさに多様でありそれぞれの人生にドラマがある。またこうした方々を挙げた各メンバーにも、それぞれの人を選んだ理由があり、それぞれに共感ポイントがあった。これらを分類することで、そうした機微が見えなくなってしまうのは惜しいが、敢えていくつかのライフコースにまとめると図1のようになろう。

 

図1.jpg図1 人生二毛作の生き方モデルとなる女性(研究会メンバーの発表より)

 

  この図では一毛作目と二毛作目の区切りの時点を示しているが、実際は人により様々であり、区切りがない人や、何度も転機が訪れる人も多い。これは、それぞれの人にとっての転機となる出来事が、定年退職に加え、子供の独立、夫との死別、家族の看護や介護など様々であることによる。特に、専業主婦であった人が配偶者との死別をきっかけに新たな人生を歩むケースがいくつも見られた。おそらく、男性の場合は、ほとんどの方が⑤⑥となり、一部④の方がいるといった具合になるのではなかろうか(図1の右側にイメージ図)。


 このようにして見ると、たしかに女性のライフデザインは多様であることが分かる。しかしロールモデルという観点で見ると、現時点では、スーパーウーマンの華やかな二毛作目か、専業主婦から開花するケースが多い。企業人としてつつがなく定年を迎える女性の二毛作目についてはロールモデルが少ないのが現状であり、働く女性が増える中、この点は依然として課題である。また、研究会の議論では、女性の立場はその時代背景、また母親の価値観にも大きく影響されるため、その研究も必要であろうとの指摘もあった。例えば、これからの女性は二毛作目も仕事をして収入を得ることが前提になるのではないかとの見方もある。さらに、二毛作目を豊かな実りのあるものにするために、一毛作目で力尽きないこと、準備をしておくことの大切さも確認された。

 

2.3二毛作目のライフデザイン

 

 こうして生き方モデルを皆で共有したうえで、メンバーそれぞれが自身の60代以降の生き方について考え、発表しあった。なかなかイメージするのが難しいながらも、各人各様の60代以降、各人各様の二毛作目の生き方が語られた。
 様々なアイディアや夢を大きくグループ分けすると図2の青い丸のようになり、挙がっている項目は男性と大差ないように見える。しかし、女性特有の特徴と思われることは、皆欲張りでやりたいことがたくさんあり、あれもこれもと組み合わせを考えているということだ。一人一つではなく、それぞれが複数(2~7)の二毛作目人生を思い描いている。例えば、新しい仕事を立ち上げながら趣味も大事にする、農業をやりつつ在宅の仕事もする、地域に貢献しつつ旅行も、など、そのあり方は多様である。ここには、アイディアの中に常に組み合わせを考える、豊かな女性たちの像が浮かび上がってくると言えよう。キーワードは、「欲張り」「柔軟性」「組み合わせ」である。

 

 

図2.jpg 

図2 自分自身の60代以降の生き方を考えたら・・・(研究会メンバーの発表より)

 

 これについてはいくつかの理由があるだろう。
 一つには、それぞれが人生の中で様々な転機を経験しており、また親族を含む友人・知人の多様な生活も見聞きしていることから、多くの選択肢が常に視野に入っているのではないかということが考えられる。昼間に自由な時間がある主婦層をターゲットとした様々な趣味や楽しみ方に関するマーケティングも盛んで、そういった生活をイメージしやすい一方、家庭と仕事を両立させる中で諦めてきた数々の憧れも膨らんでくるだろう。


 そして、より現実的には、女性の人生は様々な事情により変化し、枝分かれもするということがあろう。家族、お金、自身や周囲の健康などのその時々の状況に応じて、柔軟に選択し対応していかなければならないのが女性のライフデザインの前提なのである。同時に、一毛作目から柔軟にワークとライフのバランスをとってきた女性にとって、いくつかのことを同時並行的に楽しみ、バランスさせながら両立させていくことは至極当然なことであるとも言える。


 また、地域への貢献、地域デビューをより自然にかつ具体的に考えているのも女性の特徴であろう。元々女性の方が日常の活動を通じて地域との関わる機会が多い上に、子育てや介護の経験を通じて地域ぐるみの支援の大切さを感じ、今度は自らがその役割を担いたいとの意識の表れではないかと考えられる。


 さらに、多くのメンバーから健康の大切さについての言及があった。介護経験や更年期等に伴う自身の体力や健康への不安が背景にあるようだ。二毛作目の人生を充実したものにするためには、心身の健康が大前提となることは言うまでもないが、女性はその重要性をより痛切に感じているのかもしれない。

 

2.4 男性との比較における女性のライフデザイン

 

 最後に、男性との比較という視点から女性のライフデザインについて、議論を終えた後のメンバーの意見から考えてみたい。
まず一つ言えることは、フルタイムで働く女性の場合、考え方や行動パターンにおいて男女差がなくなってきているという点である。特に若い世代では、女性は自らのスキルで収入を得る道がある女性が増える一方で、男性でも家事もそこそこできる人が増えるなど、双方ともそれぞれの意味で「自活力」が上がってきている。このように男女ともに変わることにより、性差が色々な場面で縮まり、今までの役割分担意識も変わる可能性があると考えられる。


 しかしながら、出産、育児など様々なライフイベントを経験していく女性は、ライフデザインを考えるにあたって、また形成していくにあたってフレキシブルに考えることができるようだ。「悪く言えばしたたか」との意見もあったほどだ。男性は比較的自己実現の欲求が強く、第三者からの評価を重視しがちだが、女性は多様な広い視点を持ち、自分自身のワクワク感を大切にしながら柔軟に対応している様子が窺える。


 また、つながりやコミュニケーションに対する男女の考え方の違いとその変化も指摘された。男性は日々の暮らしにおけるコミュニケーションに対するプライオリティが低く、今後も人とのつながりが広がりにくい状況は変わらないのではないかという見方である。女性は友人や地域とのつながりが多いため、「共助」の機会さえ提供できればスムーズに回っていくように思われる。その一方で、女性もフルタイムで働く人が増え、地域とのつながりが作れていないケースも増えている。ここでも男女差はなくなってきているのだろうか。

 以上、第1回は、女性のライフデザインの全体像についての私達の議論の過程をご覧いただいた。
 次回は、女性のライフコースと世代間の違いについて見ていき、第3回以降は、個別テーマについての議論を進めていく。

東京大学ジェロントロジー・ネットワーク WG8D 女性のライフデザイン研究会 (17社30名:女性24名・男性6名の共同作業)
(事務局:花王株式会社 桜井恵子/岡見京子、株式会社富士通総研 倉重佳代子、ライオン株式会社 平山知子)

【第1回編集担当】株式会社富士通総研 経済研究所 倉重佳代子