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寄稿

【連載】女性による超高齢社会のための女性のライフデザイン ~曖昧模糊とした女性の生き方の全容を探る~【第3回】

第3回:個別テーマ議論「楽しむ・学ぶ」  “ Curiosity , what makes life happy. ”

連載の第1回、第2回では、女性のライフデザインの全体像を俯瞰してきた。第3回からは個別テーマの議論に入る。今回は個別テーマ「楽しむ・学ぶ」の議論の様子と創出された視点について紹介する。

 


1. 女性の生き方からみた「楽しむ」「学ぶ」


 

 はじめに、今回取り組んだ6テーマの中での本テーマの特徴について考える。連載第2回で述べたマズローの欲求段階説による個別検討テーマの位置づけからみると、「楽しむ・学ぶ」や「つながる」は、健康、介護、家事、住まいと比較すると高次の価値であり、必然性のあるものではない。しかしながら、人生90年時代の後半を豊かでよりよい人生とするために、「楽しむ・学ぶ」は自らの関心や行動範囲を広げる動機付けとなり、興味ある分野で同じような価値観を有する人とのつながりを得る「場」となりうる。だからこそとても重要なことであり、個人的な取り組みにとどまらず、社会的なサポートが望まれ、ビジネスチャンスが多く存在するテーマであろう。

 ここで、「楽しむ」と「学ぶ」をなぜ一緒に議論したかについて、記しておく。「楽しむ」と「学ぶ」は、その源には共通して「好奇心」があるのではないか、と我々は考えたからである。好奇心とは「珍しいことや未知のことに興味を持つ心」(旺文社国語辞典 改定新版)であり、「なぜ?」「どうして?」という好奇心から、学んだり、いろいろな人との出会いや体験を楽しんだりできると言えよう。


 表1は、今回我々が比較検討したたんぽぽ世代(20-30代)とばら世代(40-50代)という世代の違いによって特徴が出た注目すべき点をまとめたものであるが、ここでも「楽しむ」と「学ぶ」の区別はみられない。議論を通じて、我々は、楽しむ・学ぶことを、単独の娯楽や学習としてではなく、健康や社会貢献、あるいは収入に繋がるような「生活の一部分」として捉え、重きを置いていることに気付いた。さらに今後は、たんぽぽ世代のように働く女性が増えることで、仕事一筋の男性に言われてきた「楽しみ・学びの欠如」が、女性においても当てはまる部分が出てくる可能性も浮き彫りになってきた。





表1 世代による「楽しむ・学ぶ」意識の違い (たんぽぽ:20-30代 ばら:40-50代)

女性第3表1.png2. 社会的背景 ~働く女性の増加と、楽しみ方・学び方の多様化~

 

このような世代による「楽しむ・学ぶ」意識の違いはどこから生まれているのだろう。その背景の一つとして、働く女性の増加が挙げられる。1985年に1548万人であった女性労働者数は、2011年には2237万人にまで増え、労働者総数に占める女性割合は35.9%から42.7%にまで増えた[1]。連載第2回でも詳しく解説したように、年齢別の労働力率は、女性の場合、20代と40代をピークとし、間の30代が落ち込むM字カーブを描くことが知られているが、近年は特に初めのピークが20代前半から後半に移行し、30代での落ち込みもそれほど大きくなくなってきている[2]。これは、晩婚・晩産に加えて、結婚や出産を経ても働き続ける女性が増えたからだと言われている。
 結婚や出産を経ても働き続ける人が増えてきた若い世代は、楽しみ方・学び方に対してどのような意識を持っているのだろうか。株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント(以下R&D社)が実施している「生活総合ライフスタイル調査」CORE2013(2012年実施)を参照すると、ばら世代や団塊世代にはない傾向が見えてくる(表2)。町内会やサークル等の団体に参加しないケースも多く、○○教室などの教室に実際に足を運ばずPCやインターネット等で楽しむ姿が浮かんでくる。一方で、「将来に役立つ資格や技能を身につけたい」「できればもっと趣味や娯楽・レジャーを楽しみたい」「自分が本当にやりたいことが分からない」などといった意識も見られ、女性が働き続けるのが当たり前になりつつある社会において、楽しみ方・学び方は団体から個人へと実に多様になってきているのが分かる。

 

表2 世代によるライフスタイル意識・実態の違い (R&D社 CORE2013調査データ[3]より、表作成)

女性第3表2.png表中数字はYES率あるいは該当率を示す。3世代のうち、最も高値であった世代のセルを色がけして示す。

 


3. 理想のライフスタイルと現実

 

3.1 世代間の違い

 

  以下、理想のライフスタイルと現実について我々の議論過程の詳細をみていく。各テーマについて、現状の整理をした後、自らがシニアになったときの理想の姿を考え、その実現に必要な要素/提案をまとめるという形で、グループ議論を行った。グループディスカッションにおいて、同じテーマでも世代間で現状認識や理想の姿が異なる場合があったことは注目に値しよう。
  「たんぽぽ」世代(20-30代)は、今のシニア世代と自分達がシニアになった時とでは考え方も大きく変わっているだろうと思いながらも、シニアライフがどのようになるのか、自分はどう準備していけばよいのかが分からないことに不安を感じている傾向が見られた。それゆえ、色々試せるようなしくみや、総合的に情報・選択肢を与えてくれるコンシエルジュサービスのようなものへの期待が高かった。仕事が大きなウェイトを占め、自分が何を楽しめるか分からないとう意見も出てきており、ここに世代格差が存在することが明らかとなった。また、求める繋がりとして、「お二人様」や「一緒に楽しめる友人」などがキーワードとして多く挙がっており、気の合う仲間と過ごしたいという特徴が見受けられた。
  一方、「ばら」世代(40-50代)は、より現実的に、来るべき自らのシニアライフと向き合い、全ての基礎となる健康の維持とつながりの重要性を指摘している。また、何らかの形で働いたり教えたりしながら社会に貢献したいという意識が強く、世代交流や国際交流にも積極的な姿勢が見受けられた。
  全体ディスカッションでは、各グループからの発表を踏まえ、個々のテーマに関する社会全体の課題認識や現状の動きについて、また男女の違い、世代間の違いなどについて、議論が行われた。議論の中で出てきた重要な論点としては、楽しむ・学ぶということは、決して単独で存在するものではないということであった。例えば、若い頃においては、「学び」は基礎学力の習得、あるいは社会人として必要なスキルの習得など、必要に迫られて行うものであった。しかし、シニアになっての「学び」は、自らの意思で行うものであり、「学び」が「楽しみ」になっている。実際に他の調査結果にも「学ぶこと自体が楽しい」が声として多いことが記されている[4]。これこそが、生涯学び続けるモチベーションの源泉となるのではないだろうか。
また、ばら世代では特に健康に焦点があてられていたが、どの世代においても、「楽しむ」「学ぶ」ことを、健康や社会貢献、教育、収入などと密接に繋げて議論がなされてきた。すなわち、我々は、楽しむ・学ぶことを、単なる趣味や娯楽といった単独のものでなく、重要な生活の一部分として捉え、重きを置いていることに気付いた。これは世代共通の考え方であった。

 

 

3.2 たんぽぽ世代(20-30代)の特徴
 


女性第3図1.pngのサムネイル画像

図1 たんぽぽ世代の「楽しむ・学ぶ」の現状と理想、実現のためのアイデア一覧

 

 

 各世代の詳細な議論をみてみよう。図1たんぽぽ世代(20-30代)では、自分が60代になったときに、楽しむ・学ぶための目的が分からない、何が面白いのか分からない等、たんぽぽ世代では仕事以外の楽しみ方や学び方が分からなくなったときには、まずは自分探しをすることが課題であった。その背景には、たんぽぽ世代が子育て時期であり自分のための時間が少ない現状が想定される。R&D社の調査では、自分の学習や趣味、老後のための貯蓄よりも、育児や家族とのふれあいを優先することは、たんぽぽ世代とばら世代に共通していた。その中でたんぽぽ世代は、ばら世代に比べていっそう子育てへの重視度が高いが、満足度はばら世代と同程度に低いという状況であった(図2)。

 女性第3図2.pngのサムネイル画像図2 生活重視点と満足度 (たんぽぽ世代女性 n=267、ばら世代女性 n=384;同居子あり、[3])

 

  たんぽぽ世代はポストバブル世代とも言われ、好景気を知らず、就職氷河期や非正規雇用の増加など不況が影響していることもあろう。議論の中でたんぽぽ世代から、「今は夫婦で働き続けないと生活できない。子供が生まれて育児休業を取得するときには、夫婦のどちらが職場でのポジションが上なのかを考慮して生涯収入で損をしないようにどちらが育休を取得するのが得かを考えて行動する事例が身近にある。」という発言があった。1985年の男女雇用機会均等法の成立以降、女性が職場で出産や育児を経て働き続ける環境は整備されつつある。ワークライフバランスを促す政策の一方で、現実には安心できる現役生活、老後生活を確保するために、若い世代が生き方を模索している。このような現状の課題から、たんぽぽ世代が60代になったときの理想は、現状の課題が解決された状態がイメージされた。

 

 

3.3 ばら世代(40-50代)の特徴

 

図3 ばら世代の「楽しむ・学ぶ」の現状と理想、実現のためのアイデア一覧

 

女性第3図3.jpgのサムネイル画像

 

  続いて、図3に示すばら世代(40-50代)の課題をみると、たんぽぽ世代とは異なり、イメージがより具体的である。旅行や趣味、孫の面倒から学びまでやりたいことはたくさんある一方で、健康不安や多忙さという現実との調整に悩んでいる実態が浮上した。
ばら世代は、健康あっての楽しむ・学ぶであることを認識しており、たんぽぽ世代とは異なる切実な健康意識があると考えられた。その背景には、自らの体力低下や親や周囲の老いを経験する中で、より現実的な健康の大切さを実感しているのではないだろうか。この世代が楽しむ・学ぶことを「どうせなら健康につなげたい」としていることは興味深い。(参考:「年をとっても健康でいられるか不安である、たんぽぽ(n=446)27.1%、ばら(N=509)41.1%、団塊(n=273)52.7% [3])
  興味の方向は多岐に渡ったが、フルタイムで働く女性を中心とした今回の議論では「忙しく時間がない」という本音がみえた。ばら世代は男女雇用均等法前後に就職しており、女性が働き続ける事例が少ない中で、仕事だけではなく、家庭、育児、地域活動等を担ってきた。親や友人の活動を見聞きして「時間ができたらやってみたいこと」がストックされる一方で、「時間がなくてできない現実」と葛藤している。そのせいか、60代になったときには孫の面倒を見ることが視野にある一方で、「孫よりも自分の時間を大切にしたい」という声が挙がった。
  R&D社の調査でも、理想のセカンドライフについては興味深い結果となっている(図4)。たんぽぽ、ばら、団塊と世代が上がるに従って顕著に減少する項目は唯一「新しいことを始めたい」であった一方で、「趣味や旅行」「孫の成長」「食べるのに困らない程度に働きたい」「子供や孫に囲まれて楽しく暮らしたい」といった楽しみや収入に関する項目においては3世代共通で6割以上と高い値であった。新しいことについては、世代が上がるに従って、既にやりたいことをやってきた結果なのか、気力や体力などの低下によって新しいことへのハードルが高くなることが原因なのかは不明である。しかし、楽しみや収入についての関心は3世代共通で高く、さらに「地域と関わりながら暮らしたい」や「自分の能力を社会に活かしたい」「若い世代との交流」など、人との繋がりを求める積極的な活動にも一定以上関心が見られたことから、環境変化に柔軟に対応しつつも欲張りなセカンドライフを理想とする女性の姿を見ることができた。

 

 女性第3図4.pngのサムネイル画像図4 理想のセカンドライフ[3]

 

  団塊世代向けに、旅行業界では海外旅行から日帰りバス旅行まで豊富なツアーがあり、観光地には高齢者の姿が多く見られるようになった。その他にも定年後にNPO法人を立ち上げたり、新しい資格にチャレンジしたり、ボランティアで積極的に活動したりという事例も聞く。団塊の世代以降、「学ぶ」は楽しみのひとつとして、人生を豊かにするために大切な選択肢のひとつとなっている。今後、ばら世代が60代になったときには、ばら世代の社会経験を活かしコミュニティにおいて「学ぶ→教える→作る→売る」サイクル(図3アイデア欄参照)を回して「ちょっと稼ぐ」ができると望ましい。

 

 

4. 理想実現のために必要な条件

 

  両世代を通じて教育、情報、サービス・制度などのニーズが挙げられた。
  たんぽぽ世代には、自分探しのお手伝い、例えば、オンリーユーコンシェルジュのように自分の現状を理解して具体的なプランを提案してくれるような個別ニーズが強いことがわかった。また、現代のシニアの価値観と将来自らがシニアになったときの価値観は異なるだろうと認識しており、「アクティブシニア予備軍のコミュニティ」や「レンタル孫」等の「場」や「交流」を通じた新たな仕組みづくりのアイデアが出たことは興味深い。
  一方、ばら世代には、全ての基本となる健康づくり支援として、例えばラジオ体操、公文式などのように、誰もが取り組めて、継続することで楽しく健康づくりができるようなサービスが求められた。実際に、老後生活に向けて準備していることには健康関連の事柄が多く、R&D社の調査でも、ばら世代が老後生活に向けて準備している事柄のトップは「日頃の健康管理をしっかりする(35.4%)」であった[3]。


  また、学び・教えあえる環境作りが仕組みとして必要ではないかということが議論された。例えば、前述した「学ぶ→教える→作る→売る」サイクルのように、学びやこれまでの経験や知恵を、活用する仕組みが求められている。それによって、健康や人とのつながりを得て、さらに収入につながるのならば大きな喜びである。このような理想的なサイクルの循環に向けて、障壁を低減させるために、産官学での分野横断的な取り組みが期待される。最近の動向として世代間で、あるいは地域で、学びあう仕組みは少しずつ出来てきているが[5]、一層の整備が必要だろう。


  年を重ねることは失うことも多く、できたことができなくなる経験を多く重ねていくことだろう。そのような中で、不安があっても楽しみをあきらめないマインドの醸成は今後の課題であり、そこに求められる学びもあると考える。
  今回の議論を通じて、「楽しむ」「学ぶ」は自らの意思で行うものであり、その根源に好奇心があることが見えてきた。この超高齢社会において、生き方を見直し、豊かな人生をおくるために、好奇心をもって学び、楽しみ、幸せな暮らしを実現していくことが必要である。そのために、個人にとどまらず、社会としてビジネスとして積極的な取り組みを行っていきたい。

 


コラム.pngのサムネイル画像 
 
5. 理想のシニアライフアイデア

 

最後に議論の中で出たアイデアを紹介する(図5)。「母子最強伝説の創成」「シニアによるユニバーサル大学」「エイジング・コンシェルジュ・チームの設置」「40歳からのライフプランコンサルティング」「L90ガールズコレクション」など、実に様々なユニークなアイデアが創出された。

 

 

女性第3図5a.jpgのサムネイル画像a)母子最強伝説の創成  

 

女性第3図5b.pngのサムネイル画像                           
b)シニアによるユニバーサル大学


女性第3図5c.pngのサムネイル画像c)エイジング・コンシェルジュ・チームの設置

 

女性第3図5d.pngのサムネイル画像                       
d)40歳からのライフプランコンサルティング


女性第3図5e.jpgのサムネイル画像e)L90ガールズコレクション

 

図5 理想のシニアライフアイデア


  以上、第3回は、「楽しむ・学ぶ」の議論の様子と創出された視点を紹介した。次回第4回は、「働く・お金」についての議論を紹介する。


 

【第3回編集担当】味の素株式会社 食品研究所 岡辺有紀、ライオン株式会社 生活者行動研究所 平山知子

【調査分析担当】株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント 真坂美緒


参考文献

[1] 「平成23年版 働く女性の実情」 厚生労働省
[2] 「平成25年版 厚生労働白書」 厚生労働省
[3] 株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント「生活者総合ライフスタイル調査」CORE2013(2012年実施)
[4] リクルート ワークス研究所, 2011, 「シニアの学び行動の考察と定年後のキャリア形成 -大学院の可能性- 」
[5] 教育ZINE きょういくじん会議 2008/4/14掲載 「シニア世代が大学で学びなおし―経験生かし若者に影響を」
 (http://www.meijitosho.co.jp/eduzine/kaigi/?id=20080146

 

 

 

 

 

 

 

東京大学ジェロントロジー・ネットワーク 
WG8D 女性のライフデザイン研究会 “L90”    
参加者:17社30名(内、女性24名・男性6名)

【第3回編集担当】味の素株式会社 食品研究所 岡辺有紀、ライオン株式会社 生活者行動研究所 平山知子
【調査分析担当】株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント 真坂美緒