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Interview

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 秋山弘子氏

イリノイ大学でPh.D(心理学)取得、米国の国立老化研究機構(National Institute on Aging) フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)などを経て、現在、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、日本学術会議会員。専門=ジェロントロジー(老年学)。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を20年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。超高齢社会におけるよりよい生活のあり方を追求。英文での著作・論文多数。

「笑顔のある長寿社会」の実現に向けて

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 秋山弘子氏

イリノイ大学でPh.D(心理学)取得、米国の国立老化研究機構(National Institute on Aging) フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)などを経て、現在、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、日本学術会議会員。専門=ジェロントロジー(老年学)。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を20年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。超高齢社会におけるよりよい生活のあり方を追求。英文での著作・論文多数。

人生90年時代の「新しいライフデザイン」


人生50年、60年時代には、ワンパターンな人生しかありませんでしたが、人生90年時代になると、人生50年とは違う、新しいライフデザインが必要になり、全く違う二つのキャリアを持つことも十分可能になります。まさに、人生多毛作の時代です。そしてそれぞれの人が自分の能力を最大限に活用する、多様な人生設計が可能になってきました。ただ、どう設計してよいかわからない、というのが現実です。個人が人生設計をつくり、それを満たす物やサービスをつくっていくというのも重要ですが、プラス新しい人生設計をつくるためのオプションを、はじめから提供していく、こういう魅力的な生き方もありますよ、とういことを産業界には提示してもらいたいと思います。


これまでの人は、余生をつつがなく過ごすことだけを考えていたと思いますが、団塊世代は、これからもう一つ人生がある、そういう局面を経験する初めての世代です。つまり、団塊世代は「人生90年時代のパイオニア」といえます。パイオニアとしての、苦しみやもがきがあるのは当然のことで、実際に団塊世代の人達は、いろんなことにトライしながら、ライフデザインを模索しています。


新しいロールモデルとは?とよく聞かれますが、「サクセスフルエイジング」という言葉があります。これは、健康で認知力もしっかりあって、社会に貢献している人で、上手な歳の取り方をしている人だという考え方ですが、あまりワンパターンの「サクセスフルエイジング」というものを、かかげるのは賛成ではありません。いろいろな生き方や価値観がありますし、いろいろな能力をもっている人が自分の能力を活用して、いろいろな価値観に従って生きていけるような社会というのが理想だと思います。虚弱のままで生きていく人もいますが、それでも自分らしく生きていく、それができる社会が理想です。


高齢社会のしくみ創りは、産業界のビックチャンス


今の社会のインフラは、人口がピラミッド型のときにできたインフラなので、多くの人たちが90年の人生を生きるための必要なインフラにはなっていません。このままでは不都合なところがたくさん出てくるので、それを変えていかなければなりませんが、これは政策の問題でもあり、産業界にとっても、あらゆる分野がマーケットになるということでもあります。そのためには、創意工夫が必要です。人生90年になると、多くの人にとって、ある程度の虚弱期間は必然的に生じてきますが、そこをいかに安心で快適に過ごせるかを工夫することは、産業界にとっても、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。


一番大きなマーケットは、人生の第四期、後期高齢者にあると考えています。後期高齢者で、介護が必要な高齢者は2割。つまり8割の高齢者マーケットに新たなチャンスがあるのです。高齢者の多くは、今の生活を続けたいと思っています。それを可能にするような物やサービスをつくっていく、ここが莫大なマーケットになると思います。


例えば、ノンアルコールビール。ビール会社にとっては、車の運転をする人や、妊婦さんを念頭において開発した商品だと思いますが、一番望んでいたのは高齢者ではないでしょうか。今まで、ビールを飲んできた人たちが、血糖値が高いから、血圧が高いから・・・と、ビールを制約された時に、人生の大きな変化に出会います。何十年も続けてきたことをある日突然継続できなくなる。そんな時に、アルコールがなくてもビールを飲んだ気分になれるのは、大変意味のあることなのです。ノンアルコールビールによってものすごく大きなメリットがあるのは高齢者なのです。少々高くても良いから美味しいビールなら売れると思います。高齢者ニーズを探るには、普通の高齢者の日常生活をみてみれば、そんなに難しいものではありません。8割の高齢者の日常生活をみてみると良いでしょう。


先日、スイスのチューリッヒで行われた世界の高齢化会議で感じたのは、日本が高齢社会のフロントランナーだということでした。日本が人口の高齢化にどのように対応するかということを世界が注目していて、日本の対応に期待もしています。特に、アジアの国々は、文化が似ているということもあっていろいろな共通点がありますから、日本で上手くいったことは自国でもうまくいくだろうと思っています。中国、インド、インドネシアなどの高齢化対応は、日本がやったことの中で、上手くできたところを取り入れようと思っているのでしょう。それは裏を返せば、社会のしくみそのものを輸出できるという、日本にとっては大きなチャンスでもあります。


長寿社会の新しい文化の創生


人生90年の新しい文化をつくっていくのは、個人のライフデザインと社会のしくみが一緒になったときにはじめて可能になると思います。長寿社会の新しい文化をつくるには個人の努力だけでも、政府や自治体だけでもなく、産業界や、学(大学や研究機関)も入れて、いろんなプレーヤーが一緒になって連携してつくっていって、始めて出来るものではないでしょうか。


GBR(ジェロントロジー・ビジネス・レビュー)は、そういう人たちのアイデアや経験をぶつけあって、そこから新しいライフデザインや新しい社会のしくみ、豊かな長寿社会の文化をつくっていく、プラットフォームになればと考えています。


元気な高齢者が増えています。これは統計でも発表されていることで、高齢者は社会資源、人的資源として捉えることができます。高齢者を社会資源としていかにうまく活用するかというのが、これからいかにして持続的な長寿社会を実現するか、ということの非常に大きな社会の経営的要素になると思います。長期的にみて、女性と高齢者という非常に質の良い労働力を最大限に活用するためには、フルタイムかゼロか、という働き方ではなく、もっと柔軟な雇用形態で労働力を確保するなど、持っている能力を最大限に活用して働けるような就労のシステムを創っていかなくてはいけないと考えています。


幸い、日本の強みは、高齢者が働きたいという意欲があることです。経済的な理由だけではなく、働くということに生きがいを見出しています。働ける間は出来るだけ働きたいと思っている高齢者が、無理のない形で、生産性や安全性を確保しながら皆が生涯働けるような、そういう社会をつくれれば、社会にとっても個人にとっても、また個人の健康にとっても良いですし、高齢者の就業率が高い県は、医療費が低いという統計もあります。高齢者の社会参加は、企業も自治体も一緒になって改革していかなくては実現しないと思います。東大の高齢社会総合研究機構(IOG)では、コミュニティで仕事の場をつくるというプロジェクトに取り組んでいますが、コミュニティでの受け皿というのも必要ですし、それと同時に、企業でも高齢者の活躍の場もつくっていくということも同時に進めていくと良いでしょう。


「長寿社会の企業の経営」をイノベーションするプラットフォーム『GBR』を目指す


政策レベルの制度設計だけではなく、雇用のしくみを含め、企業の中でイノベーションを起こすことが必要です。若い人の仕事も保障した上で、みんなが活躍できるような、そういう経営システムのイノベーションに向けて、みんなで知恵を出し合う。企業の在り方、つまり、何をつくるかということや、企業のマネジメント、存続のあり方を変えていく。もっと積極的に、高齢者という社会資源を活かすようにビジネスに取り込む。CSRを超えて、高齢者を雇用するとメリットがあるような経営システムのイノベーションを起こすことが大事です。GBRは、そういう議論ができるような場にしていきたいと考えています。