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Report

超高齢社会の進展と商品戦略に関するー考察

株式会社電通 
ビジネス・クリエーション局
斉藤 徹
はじめに

 現在、日本は世界が未経験の超高齢社会の入口に立っている。今後、さらに急速に進む高齢化、高齢者の増加は、企業に対しどのような商品戦略を新たに迫ることになるだろうか。また、高齢化の進展は既存商品の維持継続にどのような影響を及ぼすだろうか。過去、商品戦略、商品ブランド戦略に関しては、数多くの論考がなされている。しかし、高齢社会、高齢者の増加に係わる商品戦略のあり方についての論考は見かけない。そこで、本稿に於いては高齢社会における高齢者と商品ブランドの関係性について新たに考察を加えてみたい。いささか乱暴な考察となろうがご容赦頂きたい。
 本論における高齢者とブランドに関する筆者の主な関心事は概ね以下のようなポイントにある。
①高齢者に支持される商品や商品ブランドどのような特性を持つか。また、高齢者に新たに受け入れられる商品特徴や商品ブランドの可能性はあるか?
②特定ブランドが長年生活者に支持され続けた結果、ブランド自体が高年齢(支持)化が起こりうるケースが起こりつつある。これをどのように理解すべきか?
③高齢社会の進展は、既存商品にどのような影響を及ぼすだろうか?
 本稿で語る商品(ジャンル、もしくはブランド)について定義しておく。"本稿で語る商品は、一般消費者を対象とした自動車、化粧品、家電製品、医薬品などの一般消費材を概ね示している。また、企業ブランド、製品ブランドなど細分化規定される場合もあるが、本論では特にこだわることなく使用している。

高齢者とブランドの関係性 ーダイシン百貨店の事例からー

高齢者とブランドの関係性を考えるにあたり、まず具体的な事例から考えてみたよう。最近、シニアにフレンドリーな百貨店として、マスコミでもしばしば取り上げられた東京、大森にあるダイシン百貨店のケースである。
 JR大森駅から徒歩10分程度。商店街の外れに突然現れる地上5階建のこの百貨店は、高齢者に極めて支持の高い店舗として知られている。百貨店とは言っても、実際は、スーパーマーケットとホームセンターに類似した品揃えである。日常生活を過ごす上において必要とされる生鮮品や食料品や生活雑貨、衣料品、書籍、家電製品、ホームセンター用品などが、過不足無く品揃えされている。
 しかし、驚くべきはその品揃えの中身と幅にある。言い換えれば、ここは昭和の商品ブランドのレトロ・ミュージアムなのである。映画「ALWAYS三丁目の夕日」は、昭和30年代の高度成長期初期の日本の風景が、ノスタルジックに描かれたが、ダイシン百貨店では、その当時から徐々に日本に登場してきた様々な企業の商品ブランドが、現存商品として多数品揃えされている。在庫の効率性が高く要求される昨今のスーパーマーケットでは、とうの昔に消えてしまった商品が驚くべき事に生きているのをここを訪れた人々は発見することが出来るだろう。おそらく、50代以上の方々がここを訪れれば、必ずや「ああ、懐かしい!」と驚嘆する商品が少なくとも数十種類は発見できる。

「たとえば、棚一面に200種類もの商品が並ぶ新店舗2階の歯ブラシ売り場。大手メーカー製造の定番商品だけでなく、今ではなかなか見かけない馬や山羊の毛を使った天然毛歯ブラシや豚毛歯ブラシに加え、1925年に発売されたレトロな缶入りの粉のヤニ取り歯磨きなどの歯磨き商品が並び、まるで「歯磨き博物館」のようです。」
 歯ブラシ売り場だけではありません。1階の食品売り場には、全国津々浦々の味噌が180種類、豆腐は50種類、納豆も30種類、野菜売り場も、旬のものから地域特産品、ハーブまで種類が多く、ふるさとや当地の味が簡単に手に入ります。(中略)
 極めつけは3階のペットフード売り場で、その品数、実に3000種類。おそらく日本で売られているペットフードでは、すべて置いてあると言っても過言ではないでしょう。」(西山敷『"下町百貨店・ダイシン"はなぜ、不況に強いのか』(講談社))
 このような品揃えに至った経緯について、代表取締役社長の西山敷は、「お客様から「うちはこの商品から使わないから、置いてよ。」と言われたら、その通りに仕入れて並べ続けてきただけです。」と語っている。高齢者ほど、長年使ってきた商品の愛着とこだわりが強い。その要望に従ってきた結果が、これほどの品揃えになったと言うのである。
 「お客様は常に正しい」。この言葉を唱えたのは、19世紀末のグランドホテル時代を築いたセザール・リッツである。ダイシン百貨店の愚直なまでの高齢者対応は、まさにこの言葉を体現した結果とも言えるだろう。
さて、このダイシン百貨店のMDの結果から導かれる高齢者と商品の関係性について、以下のポイントが仮説として導かれる。
①高齢者は、長年使用し続けたブランドに愛着を感じ、使用し続けたいと思うブランド・ロイヤリティの高い生活者である。
②高齢者は、簡単にブランドスイッチしない存在である。
③高齢者対応はすなわち多様化対応に他ならない。

高齢者の特性とブランド認知

 上記のように、「古いものに愛着を感じる」「同じものが安心だから、買い続ける」と考える高齢者が多いという事実は、高齢者の心理特質を考えても説得力がある。そのように考える生理学的理由のひとつとして脳機能の低下が挙げられる。
 一般的に高齢となると記憶力や学習能力の低下が起こりがちである。そうなると、新しく体験・学習したくても、学習が成立しないために身につかなくなり、昔からの考え方・やり方、習慣を大切に重んじる傾向が強くなるという。(長嶋紀一・佐藤清公編著『老齢心理学』平成2年、建帛社)
 高齢者は長年にわたるさまざまな商品の購入・使用経験があるわけであり、この購入経験を通じて、自分自身にとって使い勝手が良く、感性に合う商品を若者よりは知っている。これに加え、新しい情報や知識がすっと入らなくなることもあって、むやみに新製品に飛びつかない、もしくは飛びつきにくい存在なのであると言えるだろう。
 一般に食料品や日用品などの生活必需品は、耐久消費財と比べて購入頻度は高い品目であるが、それだけに品目数も多く、新製品の発表頻度も高い。
 数多くの商品が新たに生まれ、落ちていく。商品サイクルの短い市場の中で、的確に情報処理と判断を行う事は、ある意味で高齢者にとっては苦痛になってくるのではないか。
 高齢者は知覚機能や認知機能が低下するために、外からの情報を理解し、的確に反応することが徐々に困難となる。(前掲書)そのため、それまでの経験や体験から理解出来ない、もしくは理解困難なものに関しては、若者層と比較すると商品受容に時間がかかりがちである。もしくは、最初から受容拒否の態度が起こりがちである。これは、高齢者のPC、インターネットや携帯電話の普及率が若年層に比べると低い事実からも明らかだろう。
 ちなみに、新たな情報を得ようとする事は困難になるが、古い記憶は忘れづらくなるのも高齢者の特性であるという。生理的な加齢に伴ない、人間の学習・記憶能力が低下することは明らかであるが、記憶の種類で見ると、棒暗記や丸暗記などの機械的記憶は15歳から16歳くらいを最高として、20歳を過ぎると徐々に記憶力は衰えていく。一方、高齢者においても頭の働きのよかった時期に体験した古い記憶は比較的よく保持され、長続きするという。(前掲書)若い頃の昔話をする老人の姿、はわかりやすい一般的な老人像だが、そこにはこのような記憶力の変化があるためである。
 このように考えると、年齢を重ねることと、商品の購入継続性の関係性については、図1のような仮説をたてる事が出来るだろう。新商品受容性(新商品の選択能力)は、社会的に自立する青年期から成年期にかけて徐々に高くなる。おそらく、これ以降のブランド選択は、様々な要因で変化する。同一商品を使い続ける場合もあれば、価格により簡単にブランドスイッチする場合もある、また、ライフステージの変化に伴い、商品選択の価値が変化し、(例えば、結婚したり、子供が誕生することにより)ブランドスイッチする事もあるだろう。一方、一般に子供が巣離れし、夫婦だけの生活に戻る60代以降は、成年期から壮年期にかけてのようなブランドスイッチを促す要因は、徐々に減少する。また、新規商品ブランドの受容性も、認知能力が次第に低下してくる高齢期には低くなる。一方、それに対して、同一商品の継続使用意向(ブランド・ロイヤリティ)は、徐々に高まっていく事が想定できる。同じ商品を使い続けていれば、安心感があるからである。また、新しい商品に対する抵抗感も高くなる。このように考えてみると、高齢者に対し、新たな商品ブランドを提供したいと考える場合には、上記のような前提の中でどのような対応が必要となるか戦略構築する事が重要になってくる。

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高齢者対応をどのように考えるか

では、成年期〜壮年期からの継続利用ではなく、高齢者に対し、その年齢特性や世代特性を考慮した上で、新たに受け入れられる製品となるためには、どのような対応が必要となってくるだろうか。
 ここでは、2点の重要な対応ポイントを指摘しておきたい。まず、ひとつは加齢対応である。年齢を重ねることにより、どのような部位に加齢変化が起こるかは、個々人によって各々異なるが、一般的には、40代を超える頃から視力に変化(遠視)が起きはじめ、また白髪やしわ、シミが徐々に目立ちはじめる。40代から50代にかけては、外見上の変化が中心であるが、60代になりはじめると、血圧や糖尿、膝の痛みなど、医療的治療が必要ともなる加齢上の悩みが高くなってくる。このようなさまざまなエイジングに関わる対応商品群は、この十年来数多くの商品が発売され既に大きな市場を築いている。また、生理機能、認知機能、運動能力の低下も先に述べた通り、高齢と共に徐々に低下するものの、一般的に日常生活にまで支障を来すようになるのは、70代後半から80歳を過ぎてからである。これらの生理面、運動面含めたざまざまな加齢変化に係わる(予防、アンチエイジング、健康維持など)対応商品の開発は今後の高齢者実数の増加もあり。さらなる対応バリエーションと商品開発の可能性が拡がっていると言えるだろう。
続いて、二つ目はライフステージ上の変化である。人生の高齢期に於いて起こるさまざまなライフステージ上の変化として挙げられるのは、1)子供の巣立ちや配偶者の死別による世帯構成の変化、2)定年退職などに伴う社会的役割の変化、などであろう。このなかで、とりわけ今後の大きな潮流として注目すべきなのは世帯構成の変化である。日本の世帯構成の中で、単身世帯が夫婦世帯を抜いて最大の世帯構成となったのは比較的最近のことである。これは、生涯未婚者の増加と夫の死別に伴う単身高齢者の増加によってもたらされたものであるが、今後もこの流れは続くものと考えられる。このような流れの中で高齢者向け宅配弁当、単身高齢者見守りサービスなど単身高齢者向けの商品やサービスが広がりつつある。

心身共に若返る、いまどきの高齢者

年齢を重ねる事に伴なう記憶力や学習能力の低下は、誰にも起こりうる事実であるが、一方で、近年の高齢者の体力年齢は、以前の高齢者と比較して若返ってきていることも近年のトピックスとして知っておくべき事実であろう。
 健康度、老化度を計る指標としては歩くスピード(通常歩行速度)が一般的指標として挙げられる。旧東京都老人総合研究所は、高齢者の健康水準がどのように変化してきたかを調査することを目的として1991年から「老化に関する長期縦断研究」を実施している。これによると、1992年と2002年の同一地域に住む高齢者の歩行スピードを比較したところ、明らかに新しい高齢者(2002年)の歩行スピードは有意に速くなっている、すなわち健康度が増しているという調査結果が現れている。(鈴木隆雄『超高齢社会の基礎知識』)

ブランド・フレンドリーな団塊世代

 肉体年齢的な健康度に加えて今後高齢期を迎える団塊世代の人々は、戦後生まれ世代。日本の高度経済成長期に青少年期から成人期を過ごした人々である。本年65歳を迎える団塊世代は、日本初の本格的ブランド体験世代であると言ってよい。彼らが、ティーン・エイジであった昭和30年代は、日本においてさまざまな商品ブランドが一般の人々の間にも広く流布し始めた時代であった。
 高度経済成長を背景に、多くの消費材の大衆化、大量販売体制が整えられたのは、昭和30年代から40年代にかけてである。池田首相の「所得倍増計画」(昭和35年)以降、岩戸景気、オリンピック景気、いざなぎ景気と続く実質経済成長率でも10%を超える好景気の連続は、ダイエー、イトーヨーカ堂を始めとするGMS、スーパーマーケットなど流通業態の近代化、流通チャネルの整備もあり、またたく間に国民の間に、大衆ブランドの浸透・普及をもたらしていった。。
個々の商品ブランドも現在にもつながる長寿ブランドが初めて発売されたのも昭和20年代末から30年代のこの時期であった。この時期に発売された代表的ブランドをいくつか列挙してみると、自動車では、「トヨペットクラウン」(55年・トヨタ)を筆頭に「スバル360」(59年・富士重工)、「ブルーバード」(63年・日産)、「コロナ」(64年・トヨタ)などが発売開始された。飲料では、「リポビタンD」(62年・大正製薬)、「チオビタ・ドリンク」(64年・大鵬薬品工業)、「ジョア」(70年・ヤクルト)、「UCCミルク入り缶入りコーヒー」(69年)、菓子類でも、「ガーナミルクチョコレート」(64年・ロッテ)、「チョコボール」(65年・森永製菓)、「ポッキー」(66年・グリコ)などがこの時期に販売開始されている。日用品でも、「エメロンシャンプー」(65年・ライオン)、「メリットシャンプー」(70年・花王)などがこの時期に新発売されている。
 このように見ると、彼らにとって商品ブランドとは、極めて馴染みのある、親和性の高いものなのである。

ブランド再利用の動き

 最近は、この約半世紀という歳月で培われたブランド資産を上手く再活用しようとする動きも現れつつある。
 昨年夏、日本コカ・コーラは、1971年の日本発売から40年目にしてスプライトのパッケージを中身とともにリニューアルを行った。当初の販売以降、さまざまなパッケージ・デザインの変更を行いながら時代対応を図ってきたスプライトであったが、今回のデザイン変更のポイントは発売当初のガラス瓶のデザイン資産を上手く活用することにあった。素材は、当然ガラスではなく、プラスチックであるが、透明感のある緑色、半球のくぼみ、ロゴ・デザインといった当初のデザイン資産を想起させるデザイン変更を行っている。
 20代〜30代の若い人々にとって、このデザインは新鮮に映るであろう。一方40代以上の中高年世代にとっては、懐かしいデザインに映る。商品細分化の進んだ現在、なかなか幅広いターゲットに向けて、商品認知を得ていくコミュニケーションは困難であるが、過去のブランド資産を上手く活用していくことにより、ターゲットの2毛作を実現できる可能性もあることを指摘しておきたい。

表1 最近の商品ブランド復刻の動き
ジャンル 商品名 具体的内容
飲料 スプライト(日本コカ・コーラ) メローイエローも同じく復刻
  はちみつレモン(サントリー) 1990年代に人気を集めたレモン飲料を復刻
衣料品 VIVAYOU(そごう・西武) 1980年代の人気ブランドをそごう・西武のPB「LIMITED EDITION VIVAYOU」として復活
自動車 シーマ(日産自動車) 1988年に発売され「シーマ旋風」を巻き起こした高級車をハイブリット車として2012年に復活。
  ハチロク(トヨタ自動車) 1983年に発売されたAE86型カローラレビン/スプリンタートレノのイメージを継承して発売

高齢化とブランドライフサイクル

さて、以上のようなトピックスも含めて。高齢者と商品ブランドに関する問題点をいくつか羅列してみたわけであるが、このような要素を含んだ上で高齢者と商品ブランド戦略をどのように考えて行くべきかを最後に整理してみたい。

一般的にブランド戦略論においては、ブランドは競争社会下での有効な差別化資産として位置づけられている。そして、商品をブランド化していくためのさまざまな戦略設計方法が検討される。ブランドの開発方法、ブランド体系の構築方法、ブランドコミュニケーション、ブランド受容度評価・再設計、ブランド価値のメインテナンス方法などが検討される。
 一般的に新商品は、商品購入者の対象年齢を規定しつつ、同ターゲットに対して最も効果的であると考えられるネーミング、チャネル戦略、販売戦略、コミュニケーション戦略が決定され実行される。幸いにして、初期導入期においてうまく商品が受容された場合、次段階の課題となるのは、この商品が継続的に購入されていくための方策である。さらにこのための各種施策が成功した場合、この商品はロングセラー商品と呼ばれる。まだ現在ほど、流通構造が複雑化しておらず、業態も多様でなかった流通近代化初期の時代においては、先に述べた通り比較的多数のロングセラー商品が誕生した。
ロングセラー商品となった場合、長期にわたる商品の継続購入が期待されるわけであり、初期投資が回収されれば、逓増的な利益の継続獲得が期待される。
 一方、安定的な収益が獲得される一方で、ブランド維持に関する課題点も生まれてくることが考えられる。商品支持年齢層の高齢化である。
 商品特性にもよるが、商品が世代限定感を強く持った商品であった場合、その世代の高齢化とともにブランド自体の支持層も高齢化して行く可能性は否定できないだろう。その場合、商品のブランド・ポジションを支持層と共に上げていくべきか、定期的なブランドのリ・ポジショニング(若返り)を行い常に対象年齢を同一層に保っておくべきか、事業主体は選択を迫られることになる。前者の場合は、商品群自体の高齢化が想定されるため、新たに若者向けの商品を新たに用意しなくてはならない。(図2)一方、後者の場合、商品のターゲット(対象)年齢は常に同一に保たれるが、その結果逆に高齢化する既存顧客を逃す事になるため、その対応策が求められることになる。(図3)
 先に述べたダイシン百貨店の商品群の事例は、幸か不幸か対象商品年齢が若返る事無く、高齢化して行った商品の事例であるといえよう。前者の事例の事例は、化粧品市場に多くそのケースを見いだす事ができるだろう。(例えば、男性用化粧品)一方、後者の事例は、女性のファッション雑誌に見いだす事ができる。また、マス・マーケットが日本に成立して約半世紀が経過する中、先に述べた過去の商品ブランド資産を活用とする動きは、高齢者と若者層の二層を得ようとする高齢化社会ならではの新しい商品ブランド戦略として位置づけることが出来るだろう。

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