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Report

病院・施設向けリハビリナビゲーションシステム「デジタルミラー」の開発

斉藤裕之
パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 エイジフリービジネスユニット リハビリ事業プロジェクト プロジェクトリーダー

田畑仁平
同上 主事
1.開発の背景

 近年、医療費及び介護費の伸びは著しく、平成23年度において、医療費は過去最高の37.8兆円と9年連続の増加、介護給付費は介護予防サービスと介護サービスを合わせて約8兆円となっている[1][2]。その中で、平成24年の診療報酬改定では、医療と介護の機能分化と早期リハビリテーションによる医療の質の向上を図り、より充実した早期リハビリテーションを行うため、治療開始から14日間において加算される初期加算が新設された。さらに、いわゆる「スーパー回復期」と呼ばれる回復期リハビリテーション病棟の新しい施設基準が導入され、日常生活機能評価基準や在宅復帰率7割以上など、リハビリテーション施設の面からも質の向上が図られている[3]。日本は今後、手厚い社会保障による医療費・介護費の伸びによる財政圧迫と、医療・介護の質の向上という両面を両立しなければならない難しい局面を迎えつつある。

 その流れの中で、介護保険サービスでは、住み慣れた土地で、安心した暮らしを継続的に行うために、地域包括で医療・福祉サービスが提供されている。特に、急性期―回復期―生活期の連携によるシームレスなケアを実現する事で、継続的なサービスを受けられる仕組みが整えられている。現在、通所リハビリテーションは平成24年度の累計受給者数466万人、訪問リハビリテーションが同79万人と、多くの方がサービスを受けている[2]。

 このような医療・介護サービスの充実に従いセラピスト数が急増しており、平成24年度の理学療法士の有資格者の人数が10万人を超えるなど、ここ10年間で3倍近くとなっている[4]。若手セラピストが急増する中、いかに質の高いリハビリテーションを継続的に提供できるかが今後の課題となっている。この課題を解決するために、リハビリテーションの効果を見える化し、患者に対し定量的にリハビリ結果をフィードバックするツールが求められている。
 
 
2.パナソニックの介護事業
 

 パナソニックは急速に進む高齢化社会を見据え、1996年より介護分野において「バリアフリー」「ストレスフリー」「ケアフリー」の3つのフリーを「エイジフリー」としてパナソニックの介護事業のコンセプトとして掲げた。その中で介護付き有料老人ホームや通所介護等の介護施設運営、電動ベッドやポータブルトイレ等の開発・販売・レンタルショップの運営、2012年からは介護サービスまで含めた高齢者の住環境そのものを提供するサービス付き高齢者向け住宅を開設するなど、機器からサービスの提供まで生涯に渡る生活の質向上を目指して事業展開してきた。
 
 
3.デジタルミラー開発のきっかけ

 パナソニックは2008年のアジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN 2008」でフラットパネルディスプレイ(FPD)を用いた1つの未来のライフスタイル コンセプトと具体例を紹介した。例えば家庭にある鏡に映し出されたインストラクターの模範の動きにあわせて体を動かしながら自分の姿勢をチェックしたり[図1]、美容のお手本の映像にあわせてマッサージしたり[図2]、鏡の中にニュースや血圧などのバイタル情報を表示させるデジタル情報ミラーとしての活用例を披露した。

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図1.自宅での運動

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図2.顔マッサージ

 
 これらのコンセプトの商品化検討を進めていく中で、当初一般的な家庭向けとして企画を検討したが、提供コンテンツ、価格等の検討がなかなか進まず、再度ターゲットを見直すことになった。そこで出てきた新たな解の1つが、先に示した要素技術の特性を活かしたリハビリテーション向けデジタルミラーへの展開である。
 
4.リハビリテーション向けデジタルミラーの概要

 リハビリテーションの語源は再び(re)ふさわしい(suitable)状態になるという意味である[5]。単に機能の回復という意味だけではなく、広義には人間らしく生きる権利の回復を意味する。リハビリテーションは障害に対して多くの医師、セラピスト、ケアマネージャーなどの多くの専門職が総合的にアプローチし問題を解決していく。その時に重要となってくるのが、関わる専門職が患者の回復状態を表す様々な指標によってお互いに理解し、適切なタイミングで介入していくことである。つまり、異なる専門職が患者の状態、改善具合を相互理解する為の共通言語が必要である。

その共通言語として、リハビリテーションの介入前後で機能回復がどの程度進んだかを知るために様々な評価法が用いられている。例えば、関節可動域の範囲を測定する関節可動域測定や、歩行を行ううえで必要なバランス能力を評価する開眼片足立ちテスト、重心軌跡長測定などがある。関節可動域を測る場合は手作業でメジャーやゴニオメーター(いわゆる角度計)で測定を行ったり、重心バランス測定を行う場合は体重計を2つ並べて左右への荷重状態を確認したりする必要があった。さらに、言うまでもなく患者が楽しく継続的にリハビリテーションに取り組んでもらう事が大切であり、患者自身が自分の機能回復状態を客観的に知る事でリハビリテーションを継続するモチベーションとなる。

 このような検討を踏まえて、従来のリハビリ訓練機器や身体機能評価機器とは一線を画する狙いを持って、リハビリテーション向けデジタルミラーは、"見える"、"測れる"、"比較ができる"という、リハビリに必要な3つの要素を1台にオールインワンした、新しいスタイルのリハビリナビゲーションシステムとして新たに開発がスタートした。

このデジタルミラーでは、誰でも簡便に訓練や身体機能評価、履歴管理・確認ができることを目指し、操作はリモコンを使うこととした。また、バランス計のセンサにより重心測定だけでなく自動的に時間計測を、内蔵カメラ及びオプションカメラで姿勢の撮影等ができるようにした。
商品コンセプトの特徴である、①見える、②測れる、③比較が出来る について以下に説明を行う。

 ① "見える"
  デジタルミラーは自分の姿を見ながら画面(ミラー)に映るお手本映像と自分の動きをリアルタイム(同時)に比較できるため、利用者はより正確なトレーニングができる。また、介護予防やリハビリの目的にあわせて、「ストレッチ」や「筋力」、「バランス」など様々なメニューを搭載した。さらに、利用者が楽しくリハビリを行えるよう、「金魚すくい」などのゲーム性を備えたメニューなど工夫をした。[図3]
 

 
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図3.デジタルミラーの構成例

② "測れる"
 「開眼片足立ち」[図4]、「重心軌跡長」[図5]、「ファンクショナルリーチ」など、リハビリ現場で使用される6つの測定項目の計測を可能にした。

 
図4.png図4.開眼片足立ちの計測画面

 
図5.jpg図5.重心軌跡長の画面

③ "比較ができる"
 測定データや静止画を用いて介入結果をリハビリ前後で視覚的に比較でき、効果を分析しやすくした[図6]。また測定結果や画像データは個人別に記録・管理ができ、測定履歴をグラフ化して見えるようにした[図7]。

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図6.静止画による関節可動域の比較例

 
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図7.測定履歴のグラフ例

 このように現場の意見を聞きながら、デジタルミラーは2012年秋に本格発売を開始した。これらの機能により、リハビリテーションの質の向上とリハビリスタッフの業務の効率化を訴求した。
 
 
5.デジタルミラーの活用事例

 リハビリテーションにおけるデジタルミラーの有用性についての事例を紹介する。進藤篤史他によると、鏡画面で姿勢を確認しながら重心移動練習や荷重練習などを行う事で簡便に姿勢を意識して治療が可能になることが示された[6]。急性期でのリハビリテーションにおいては、日常生活動作の改善を目的として、良好な姿勢の獲得や動作練習が行われる。

<症例:左脛骨高原骨折 男性 38歳>
  術側の疼痛により術側下肢への荷重が不十分であったため、デジタルミラーを用いた左右への重心移動練習と重心動揺軌跡長を計測した。

 リハビリ介入前(2012/5/17):重心軌跡長51.5cm、矩形動揺面積23.3cm2
 リハビリ介入後(2012/6/05):重心軌跡長36.8cm、矩形動揺面積7.9cm2

 従来は姿勢矯正鏡と体重計を用いていたこれらの測定項目について、デジタルミラーを用いることで目線を下げることなく正しい姿勢で簡便に実施する事ができた。また、訓練前後の効果をその場で患者と確認することができ、治療経過を客観的なデータとして患者と共有することでモチベーション向上につながることが示された。
 
6.デジタルミラー及びリハビリ事業の今後の展開

 デジタルミラーはセラピストや患者・利用者の意見、要望を聞きながら、見える、測れる、比較が出来る、のコンセプトを基本としてさらに機能を強化していく予定である。
2013年秋には現場の声を踏まえて動画を撮影し再生・比較できる機能や任意の目標位置を設定し重心移動訓練を行うなどの新たな機能を搭載したデジタルミラーバージョン2を発売した。今後はさらにデジタルミラーを機軸に他のリハビリテーション機器との連携・拡充を図り、患者やセラピストに対する提供価値を高めていくとともに、リハビリテーションのエビデンス蓄積に挑戦していく。
私たちは、今後もリハビリテーション機器・サービスの提供を通じて様々な生活シーンでの「ゆとりと笑顔のある暮らし」の実現を目指していく。
 

参考文献
[1]厚生労働省 平成23年度 医療費の動向調査
[2]厚生労働省 平成23 年度 介護給付費実態調査の概況
[3]厚生労働省 平成24年度診療報酬改定の概要
[4]日本理学療法士協会HP (http://www.japanpt.or.jp/
[5]リハビリテーションビジュアルブック 学研メディカル秀潤社
[6]進藤篤史(松下記念病院)他, 「リハビリテーションにおけるデジタルミラーの有用性について」, 日本医療マネジメント学会雑誌, 巻13, Supplement, p300 (2012)